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【店主のクドバナ・その3】コーヒーはブラックで飲まないといけないの?

こうしてコーヒー屋さんをやっていると、度々同じ質問をされることがありまして、その中の一つに「コーヒー通の人はブラックでコーヒーを飲むよね?」というのがあります。
昔からのイメージとか、周りにそういうタイプの人がいたということからそう思われている方が多いようで、ご年配の方に多い傾向があるように感じます。

こういう話題になると、「私はマニアではないからいつも砂糖とミルクを入れちゃうのよね」というセリフとセットになっていることが多いのですが、あたかもコーヒーを飲む時は砂糖とミルクを本当は入れてはいけないというような意味にも聞こえます。

で、実際はどうなの?ということがなかなか本などには書いてないように思うので、当店ではこういった身近な素朴な疑問を当店なりにお答えしていけたらなあと思っています。
それで、この「店主のクドバナ」で取り上げていきたいのですが、その第1回目として今回の「コーヒーはブラックで飲まないといけないの?」という素朴な疑問を取り上げてみました。

個人的には、「どういう目的でコーヒーを飲んでいるか」というところに依るのだろうと思います。

1つは、コーヒーを美味しく飲みたいから飲んでいるという方。
もう1つは、コーヒーについて詳しくなりたいという方。
この2タイプに大きく分けられると考えますが、これで目的が全然違ってきます。

コーヒーを美味しく飲みたいという目的であれば、率直に言ってどういう風に飲んでも良いです。
コーヒーのタイプもいろいろあります。
前に書いたような焙煎度合の違いで酸味や苦味の強さが変わってきますし、それに自分の好みと合わせて砂糖を入れたりミルクを入れたりして調整して、自分にとって美味しいコーヒーに仕上げれば良いのです。

ラテやカプチーノなどのアレンジメニューが邪道ということは一切ありません。
単に飲むというところだけ考えても、抽出方法によって味のニュアンスが違ってきますから、同じミルクを入れるメニューでも、違いが出て面白いです。
また、砂糖ではなくてハチミツを入れてみたりとか、シロップを入れてみるとか幅は広がります。

この話の流れでたまに聞かれるのは、「前に行ったコーヒー屋さんで、何か入れる前に一口でいいからブラックで飲んでくれ」と言われたことがある。という話です。
これは、捉え方によっては、「ブラックで飲めない人はウチに来ないでくれ」という意味に聞こえなくもありません。
また、「あそこのお店はブラックでしか飲ませないマニアックなお店」というイメージを持たれてしまうかもしれません。
当店もそういうイメージを持たれているかもしれませんね。(ブラックで飲んでくださいとは言ったことはありませんよ。)

ただこれは、そういったマニアックとかそういう前に、コーヒーを出した側の気持ちとして、「この1杯を出すためにコーヒー豆を選んで、それをしっかり焙煎して、丁寧に抽出した結果できた味なんだから、ミルクや砂糖を入れる前の味をちょっと味わって欲しいな」というのがあるのだと思います。

つまり、自家焙煎屋さんのコーヒーというのは、手作り料理なんですよ。
例えば自宅で、帰ってくる家族のために丁寧に作った料理を、味見もせずに調味料をドバドバ入れられたら「せっかく味を調節して作ったのにな」という気持ちになると思うんですよね。
それと同じです。
お店である以上、店と客という関係はありますけど、気持ちを込めて作ったコーヒーなので、まずは一口でいいから味わってもらいたいなあ、と。その後に味の調整をするなら、まだ納得できるのになあということだと思います。

ちょっと話が逸れてしまいましたが、何にせよ単に自分美味しく飲みたいだけでしたら、ブラックで飲まないといけないということはないと思います。
ですが、もう1つのタイプである、「コーヒーについて詳しくなりたい方」については違うと思います。
コーヒーについて勉強したい方は、ブラックで飲むべきです。

結局、砂糖やミルクを入れてしまうと、そのコーヒーの本来の風味は感じにくくなってしまうということは間違いないと思います。
特にスペシャルティコーヒーは農園単位のコーヒーですから、同じ生産国の同じ地域の隣り同士の農園を、別のコーヒーを認識しないといけないのです。
これはどうしても似たような風味になってきますが、微妙なところで違いもあります。
その微妙な違いは、砂糖やミルクを入れてしまうと消えてしまいます。

コーヒーに詳しくなりたければ、やはりそれぞれの豆の本来の風味を知ろうとしなければいけないと思います。
そのためには何も加えられていない状態の、ブラックのコーヒーの方が比較しやすいでしょう。

また、スペシャルティコーヒーは評価する時にカッピングという方法を採りますが、これは完全にブラックです。
これに砂糖やミルクをあらかじめ入れられていると思うと、取るべき情報が全く取れません。
香りや酸の質、その強度、マウスフィールはミルクのせいで全部油分を感じるものになるでしょうし、どう考えても本来の味は感じられなくなります。これでは、何をやっているのか分かりません。

コーヒーは、このそれぞれの豆の微妙な違いを感じて楽しむ飲み物です。
それは最初はちょっと分かりにくい違いでしょうし、ブラックで比較することになるので、「自分は分からなけど、味の違いが分かる人はブラックで飲む人が多い」ということになり、そういうイメージが付くことになるのかなと想像します。

あ、でもコーヒーの味を比較したかったらカッピングの形でないとダメということではないですよ。普通に淹れたコーヒーでも大丈夫です。

ということで、基本的にはどちらが良い、悪いという話ではないということは、まず言いたいところなのですが、結論としましては、「目的が違うのに、混同している」ということですね。
立場が違うと目的が変わってくるのですが、それを同じ土俵で扱ってはいけません。

例えば僕の場合ですと、基本的にどのコーヒーを飲む時でもそのコーヒーがどんなコーヒーで、どんな個性を持っているのかとか、焙煎度合がどうかとか、焙煎してからどれくらい経ってこういう味なのかとか、いろいろな情報を取りたいと思っているのでブラックで飲みます。
繰り返しになりますが、これに砂糖、ミルクを入れてしまうと、こういった欲しい情報が分からなくなってしまうからです。
でも、これが仕事なのでしょうがないですね。
もし、「このコーヒーにミルクを入れたらどうなるだろう?」と思ったら、もう1杯注文します。
こういった目的がなくて、美味しく飲みたいだけなら、無理してブラックで飲む必要もないということです。

とにかく、コーヒーはとても身近な飲み物ですし、もっと気楽に飲んだらいいんですよ。
確かにマニアックに掘ろうと思ったら、それなりに答えてくれるものですが、みんながみんなそんなものを意識する必要はないのです。

例えばお肉を食べた時に、何にも気にせずに食べてみたらそのお肉がすごく美味しくて、「このお肉、何だ!?」と思えば、まず牛なのか豚なのか、部位はどこなのかくらいは気になると思います。
それで「ちょっと今日は奮発して良いお肉を買った。」と答えが返って来たら「あ~、どうりでね。」となるでしょう。
コーヒーもそれくらいで良いんですよ。

何も考えずに飲んだコーヒーが衝撃を受けるくらい美味しかったら、それが何だったのか気になるはずです。
そこから調べても全く遅くありませんし、それをきっかけにコーヒー豆そのものに興味を持ったらそこからブラックで飲むようになれば良いのです。
そのきっかけがまだ無い方は、自分が美味しいように楽しめば良いのです。

なかなか「自分は自分」と思いながら飲むのも難しいかもしれませんが、個人的にはこういった線引きがあるのかなあと感じています。
究極的には「自分が飲みたいように飲む」という立場を築けた方が、コーヒーは楽に飲めるのだろうと思います。
ですので、皆さんも「何でミルク入れるの?」と言われたら、「入れた方が飲みやすいから」と堂々と答えましょう。

それが正しい答えのように思います。

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