さて、今回もコーヒーについて、より身近な疑問に当店なりに答えていきたいと思います。
今回のテーマは、「コーヒーメーカーって、使っちゃダメですか?」です。
前回の「ブラックで飲まないといけないの?」に通じるところがあるのではないかなと思います。
自宅でコーヒーを淹れるのは、ハンドドリップとかでないといけなくて、コーヒーメーカーを使うのはサボっているというか、邪道なんでしょ?と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は結論から言います。
コーヒーメーカー、使ってもらって全く問題ありません。
理由は、美味しいコーヒーを淹れるのにより重要なのは、「淹れる方法」ではなくて、素材として「美味しいコーヒー豆を使っているか」だからです。
料理に置き換えてみてください。
美味しい料理を作ろうとする時に、高価な調理器具を買うだけで美味しくなりますか?ということです。
高価な調理器具は確かに優れた道具かもしれません。
でも、それで作る料理の素材が、古くて鮮度のないものを使っていたらどんなにがんばっても美味しくならないはずです。
コーヒーを淹れるというのも、広くは料理になるかもしれませんが、考え方は同じです。
ただ、このシンプルなことが、コーヒーになると同じに考えてない方が多いのです。
そうなっている理由として、僕は「コーヒー豆を疑っていない人が多い」と思っています。コーヒーの話になると、「上手に淹れられない」「味がぶれる」「美味しくならない」ということも聞かれるのですが、その原因を殆どの方が「自分の淹れ方が悪い」と考えているのです。
違います。「美味しくないコーヒー豆で淹れているから」です。
普通、生鮮食品ですと色が変わったり、しわしわになったりなどして、直感的に「これはもう食べられない」または「食べたとしても美味しくない」と判断できるはずです。
ですが、コーヒー豆はどうでしょう。
パッと見では時間が経って劣化していても、外見に変化が現れません。
また、そのコーヒー豆でコーヒーを淹れても、美味しくはないかもしれませんが、食中毒などの害が出ないので、問題ないと判断されてしまうのです。
明らかに劣化してしまった野菜や肉、魚を料理して美味しくなりますか?
恐らく酸っぱさを感じたり、変な臭いなどがして、美味しくないでしょうし、もしそれを消そうとするなら、調味料をたくさん加えることになるでしょう。
その料理はそもそも「美味しい料理」ではないですよね。
コーヒーも同じなんですよ。
コーヒー豆は考えている以上に早く鮮度が失われて、味が変わってしまいます。
「コーヒー豆は鮮度が大事」と最近よく聞かれるようになっているのはこのためです。
美味しい状態のコーヒー豆は、自家焙煎をしている僕の見解では、常温で置いておいた場合、大体2週間程度までだと考えておいた方が良いと思います。
劣化してくると、酸味が強くなる、エグミが出やすくなるという症状が出てきます。
つまり、劣化してしまったコーヒー豆でコーヒーを淹れると、どんなにがんばって上手に淹れても酸味が出てしまったり、エグミが強くて美味しくないコーヒーになるのです。
また、これも前にとりあげたテーマになりますが、コーヒーの味により影響が大きい要素は、「焙煎度合」です。
そのコーヒーが浅煎りか深煎りか。
それによって酸味が強くなったり苦味が強くなったりします。
「苦いコーヒーを飲みたい」と思っている時に浅煎りのコーヒーを使っても苦くなりません。
浅煎りのコーヒー豆は苦味の成分が少ないからです。
「爽やかなコーヒーを飲みたい」と思っていて、深煎りのコーヒーを使うとちょっと難しいです。
深煎りのコーヒー豆は酸味の成分が減っていて、苦味の成分が増えているからです。
自分が飲みたい味に合わせた焙煎度合でないと本当に狙った味にはならないのです。
焙煎度合はコーヒー豆の色を見ると判断できるのですが、注意して見たことがなければ判断できないと思います。
そういう訳で、「コーヒーを淹れる」ということにおいては、「淹れ方がどうか」というよりも「どんなコーヒー豆を使っているのか」ということの方が重視すべきなのです。
なので、コーヒーにこだわりたい時は、いろいろな抽出器具を買うのではなく、自分の気に入るコーヒー豆を探すのが正しいアプローチになってきます。
ここが分かれば、自分でドリップしようがコーヒーメーカーを使おうが大した違いではありません。
コーヒーメーカーで淹れても、状態の良いコーヒー豆を使えば美味しくなるのです。
もちろん、淹れ方や同じコーヒーメーカーでもマシンが変われば味は変わってきます。
抽出の段階で問題なく抽出できなければ、美味しくなくなってしまうこともあります。
度々ですが料理でもそうです。
どんなに美味しい素材を揃えても調理を失敗しては美味しくなりませんから。
でも、素材そのものの良し悪しや状態の方が味への影響は大きいのです。
なので、今回僕が最も言いたいことはこういうことになります。
「もっと今使っているコーヒー豆を疑いましょう。」
今使っているコーヒー豆はいつ買ってきたものですか?
コーヒー豆はいつも美味しい状態を保っている訳ではありませんよ。
そのコーヒー豆は自家焙煎店で買ってきましたか?
鮮度の良いコーヒー豆で淹れると、自然と膨らんできます。
「自分で淹れると豆が膨らまない」のはドリップの技術のせいではありません。
「そのコーヒー豆が膨らむものかどうか」。ただ、それだけです。
豆のまま保存していますか?
豆を挽くというのはキャベツを千切りにするようなものです。
千切りキャベツを1週間以上置いておいたら食べられますか?
コーヒー豆だけが劣化しないなんてことはありません。
このような、料理をする時に気にすることをコーヒーでも同じように気にしてみてください。
それだけで「美味しいコーヒーを淹れる」ことにグッと近づくことができます。
コーヒーメーカーを使う場合は今書いたことを意識してコーヒー豆を考えてみてください。
同じようにコーヒーを淹れただけなのに、味が劇的に変わるはずです。
産地や焙煎度合を考えるのはその後からでも大丈夫です。
と、ここまで書いておいてというところはあるのですが、これは「美味しいコーヒーを淹れる」ことに焦点を合わせた場合に限る話だよなあと一方では思うのです。
今回のコラムを読んで「いつも朝飲むのに、いちいちそんなことやっていられないよ」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
それもおっしゃる通りで、みんながみんなこのように取り組むことも不可能です。
ですので、その場合は「コーヒーとの正しい距離感」が大切になってくると思います。
この「コーヒーとの正しい距離感」は「美味しいコーヒーを淹れる」ことだけを考えた時と違った解釈になってきますので、次回のコラムはこれについて書いてみたいと思います。